M&Aにおける仲介業者の責任は?
M&Aの場面では、仲介業者に入ってもらうことが多いと思います。トラブル発生時には、仲介業者に責任追及できるのでしょうか。
M&A取引では、最初の取引相手を探すところから、仲介業者に入ってもらうことが多いと思います。その関与の程度も深いですし、支払う報酬も高額になることが多いです。
取引が無事に終了すればよいのですが、まさかの事態になり、取引がとん挫したり、取引が終了したものの大問題が発覚して損害を被った場合にはどうなるのでしょうか。
令和5年4月17日、東京地方裁判所は、株式取得の仲介業者に対して、支払われた報酬1100万円の支払いを命ずる判決を出しました。
事案の概要としては、買収対象会社が有名グループの製造する自動車や部品等のサブディーラー(再販売店)であることに魅力を感じた原告が、対象会社の株式全部を譲り受けたものの、それを発端としてディーラーから販売店契約の解消(不更新)の通知をされたというものです。買収の過程で、仲介業者の担当者は、原告に対し、本件株式譲渡についてディーラーの承諾を得たとの間違った情報を伝えていたため、それが、仲介業者の負う注意義務に反しないか等が争われました(株式譲渡自体は、売主買主間で、錯誤により取り消すとの合意がされています)、
裁判所は、仲介契約書の条項等より、仲介業者の義務を、必要な情報の取集・調査及び資料の作成、売主その他の第三者から得た情報に関する真実性や正確性等の保証まではしないものの、正確かつ適切な情報提供を行うものである等述べました。
そして、仲介業者は、原告が買収にあたり対象会社が有名グループのサブディーラーであることを評価しており、このような原告の意向に沿う形での株式譲渡を実現するためには、あらかじめディーラーから承諾を得ておく必要があったことは十分に認識しえた、それを前提とすれば、承諾を得られたか否かについて、正確かつ適切な情報提供をする義務を負っていたとし、ディーラーの承諾が得られたとの誤情報を伝えた点について、重過失があったと認定し、仲介契約に記載されている損害賠償額の上限である仲介業者の報酬額相当額の損害賠償を認めました。
本件事案は複数の論点を含むため、その全てを説明できませんが、仲介業者の責任を認めた点で注目されています。逆に言えば、そう簡単には仲介業者の責任は認められません。
M&A取引の仲介業者との関係において重要なことは、買主として何を重視しているのか、そのための条件、そして重視するものが得られなかった場合の対応等について、きちんと仲介業者と協議し、書面化しておくこと、また、被買収者との契約においてもその点を明記しておくこと等が肝要です。
そういう視点をもってアドバイスできるのが弁護士ですので、M&Aの際には、弁護士のアドバイスを得ることを強くお勧めします。
以上