新しい担保権
6月7日に、「事業性融資の推進に関する法律」が成立しました。目玉は、「企業価値担保権」という新しい担保権です。
金融機関から融資を受けるにあたっては、何らかの担保を求められることが多いでしょう。イメージしやすいのは不動産に抵当権や根抵当権を設定する、代表者が連帯保証人になる、といったあたりかと思います。最近では、売掛金などの債権を担保とするファクタリングもよく目にするようになりました。
新しく誕生した企業価値担保権は、このような個別の資産を担保とするのではなく、技術力・ノウハウ・ビジネスモデルなどといった無形資産を含む事業全体を担保とするものです。企業価値担保権を利用する場合、粉飾などの一定の場合を除いて、経営者保証の利用が制限されます。まだ、目に見える財産が少ないスタートアップ企業や、事業再生に取り組む事業者、経営者保証により事業承継を躊躇している事業者などでの利用が期待されています。
事業全体を担保とする、といわれても、なかなかイメージしにくいかもしれませんね。返済が滞った場合は、担保権が実行されるわけですが、具体的には、担保権者が裁判所に実行を申立て、裁判所が管財人を選任します。そして、管財人は事業を継続しつつ(そのために必要な商取引債権や労働債権を優先して弁済)、スポンサーに事業を譲渡します。事業譲渡の対価をもって、貸し手の金銭債権の支払に充てることになります。返済が行き詰まっても、事業をバラバラに解体して換価できるものを換価するのではなく、事業そのものを換価して、返済に充てるのですね。このような特殊性から、担保権者となることができるのは、金融庁の免許を受けた企業価値担保権信託会社に限られます。
コロナ禍によって、「伴走支援」などといった考え方が定着しつつあるように思います。企業価値担保権をはじめとする「事業性融資の推進等に関する法律」は、この流れを更に推進しようとするものであり、新しい時代の金融機関とのお付き合いとして、頭に入れておいていただければと思います。
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