会社が「労災」を争えるか
従業員から労災の申請への協力を求められた場合、どのように対応すべきでしょうか。
労災の申請書類には、「事業主証明欄」があります。従業員が労災の申請をしたい場合に、この事業主証明を求めてくることになるでしょう。
会社としても労災だと考えている場合は特に疑問もなく対応されることと思いますが、労災ではない、あるいは疑義があるという場合はどうしたらよいでしょうか。
事業主証明がなくとも、労災の申請は可能なので、「一切対応しない」といいたくなるかもしれませんが、ちょっと待ってください。事業主は、必要な証明をしなければならない義務があります。ですから、証明ができないという場合は、その理由をきちんと書面にまとめて、労基署に提出しておくのがよいでしょう。申請後、労基署による調査が行われますので、調査には協力し、労災ではないと考える理由についても説明します。
では、会社が労災ではないと考えているにもかかわらず、労災認定されてしまった場合にはどうしたらよいでしょうか。
労災認定されると、その後労災保険ではカバーされない損害について、労働者から会社に請求される可能性が高くなりますし、その損害賠償請求訴訟においても、労災認定がなされているという事実が裁判所の心証に多少なりとも影響することは事実です。しかし、これらの事情は間接的なものにすぎず、会社には直接的な利害関係はないので、会社としてはもはや、労災認定そのものを争うことはできません。
ただし、労災保険について、メリット制(労災の発生率が高いと保険料率が上がる制度)が適用される事業者の場合、労災認定により保険料が引き上げられることになります。そうすると、労災が認定されるかどうかに直接的な利害関係があるので、会社が労災認定を争うことができるのではないかと言われていました。実際に、このような考え方に立った高裁判決も出ていました。
しかし、今年7月4日、最高裁は、メリット制の適用がある場合であっても、会社が労災認定を争うことはできないとの判断を示しました。
ではどうしたらいいのかというと、メリット制によって保険料率が上がったときに、会社はその保険料の認定処分を争うことができ、その理由として労災ではないことを主張することができる、ということです。理論的にはそうなのかもしれませんが、保険料の認定がなされる頃には事故から更に時間が経過しており、会社として十分な立証ができるのかという疑問は残ります。やはり、最初の労災申請の段階で、しっかりと調査に協力し、会社の意見を述べておくことが大切です。
以上