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就業規則に定めのない完全歩合制は有効か

 運送会社で単発の依頼に対応して荷物の集配を行うフリードライバー。採用面接で、完全歩合制であることの説明を受け、入社を承諾しましたが、後日、時間外労働割増賃金の支払を求めて提訴しました。
 上記事件について、先日、東京高裁は、完全歩合制の合意の成立を否定し、運送会社に割増賃金の支払を命じました。
 この会社の就業規則には、賃金は基本給、諸手当および割増賃金で構成すると定められていて、完全歩合制に関する定めはありませんでした。東京高裁は、フリードライバーが完全歩合制へ同意したことは認めつつも、就業規則とは異なる賃金制度(=完全歩合制)とする合意の成立は認められないと判断したのです。

 労使紛争においてなかなか理解が難しいことの筆頭格が、この「同意はしたけれども、合意は成立していない」というロジックです。もともとの発端は、労働条件を労働者に不利に変更する場面において、労働者が同意したかどうかは、労働条件の変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、労働者の不利益及び程度、労働者により当該行為(要するに同意しますという意思表示)がされるに至った経緯及び態様、これに先立つ労働者への情報提供・説明の内容に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきである、という最高裁判決(平成28年2月19日)です。労働条件の途中変更の場合だけでなく、さまざまな場面にこのロジックが応用されています。

 この運送会社では、完全歩合制であることや、歩合が賃金の3~7割であることなどは説明していたものの、それだけでは「合理的な理由が客観的に存在する」とは認められなかったようです。

 そもそも、就業規則には「最低基準効」といって、就業規則よりも労働者に不利益な労働条件を定めたとしても無効になる、という効力があります。長い間就業規則に手を入れていないと、思わぬところで最低基準効に足元をすくわれる可能性もあります。求人を出す前に、一度就業規則を見直してみましょう。

以上

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