コラム
すべての民事判決がデータベース化される時代へ

すべての民事判決がデータベース化される時代へ
「裁判の公開」原則、遠い昔、公民の授業で習ったのを覚えていらっしゃいますか?これは憲法82条に定められているもので、裁判の対審や判決は公開法廷で行うこととされています。
そして、この「裁判の公開」の考え方は、判決書や訴訟記録にも及びます。実際、民事裁判の記録は、一定の場合を除き、誰でも閲覧することが可能です(意外に思われるかもしれません)。もっとも、現実問題として、一般の方が裁判所に行って訴訟記録を閲覧することはほとんどありません。それが、データベース化され、誰でも見ることができるようになります。
これまでは、裁判例を調べる方法として、裁判所が公表する判例集のほか、法律雑誌や、民間の判例データベースが利用されてきました。昔はDVD-ROM型のデータベースもありましたが、現在ではインターネット上のサービスが主流です。
もっとも、これらに掲載されるのは、基本的には「重要と思われる判決」に限られます。「誰かが重要と考えた判決」、あるいは、「紹介したいと思った判決」といってもいいかもしれません。弊所の弁護士も複数の判例検索サービスを利用していますが、A社のデータベースにはあってもB社のにはない裁判例があるかと思えば、その逆も存在します(だから複数を利用しているわけですが)。世の中には日々大量の民事判決が出されていますが、そのすべてが公表されるわけではありませんでした。
2025年5月23日、「民事裁判情報の活用の促進に関する法律」が成立し、民事判決について、広くデータベース化・公開が進められることになりました。ただし、判決書の中の氏名、生年月日、住所などについては、個人が特定されないよう加工された上で公開される予定です。
制度の運用開始は2027年頃とされています。
この制度が始まると、裁判実務にもいろいろと影響が出るのではないかと考えられます。
これまで、裁判の見通しについては、過去の経験や、弁護士個人の知見に基づいて判断される部分が大きくありました。「この類型の事件だと、このくらいの結論になりやすい」という感覚的な部分も、実務では少なくありません。
しかし、今後、大量の判決データが蓄積されれば、データ分析による予測も現実味を帯びてきます。判決書には、証拠からどのような事実が認定できるのかが記載されていますので、「このような事実があればこのような判決になる」という傾向分析が進むと考えられます。
そうなると、そもそも訴訟提起をするかどうか、どの段階で和解するか、といった訴訟活動の方針にも、データ分析が影響を与えるようになるかもしれません。
もっとも、当事者が提出した証拠は、データベースには含まれませんので、「このような証拠があればこのような事実が認定される」という部分については、データ分析が及びません。したがって、データ分析で全てが予測可能になるものではなく、まだまだ弁護士の腕の見せ所が残っています。
もうひとつ興味深いのは、裁判官や、弁護士など訴訟代理人の氏名については、加工対象とはされていない点です。
もちろん、裁判は個別具体的な事情によって決まるものであり、「この裁判官なら必ずこうなる」と単純化できるものではありませんが、やはり裁判官も人間である以上、個性や価値観が判決に現れることはあります。「○○裁判官はこの類型では被告に厳しい判断をする傾向がある」といった分析や、極端な言い方をすれば「○○裁判官攻略法」のような情報が出回る時代が来るのかもしれません。
裁判のデジタル化・データ化を上手く活用し、よりよい紛争の解決に向けて尽力したいと思います。
以上
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