2026.04.13

その無償保管、大丈夫ですか。

 去る3月30日、公正取引委員会は、矢崎部品に対し下請法(現:取適法)違反を理由として勧告をしました。

 本年1月1日から、これまでの下請法は改正され、「取適法(中小受託取引適正化法)」としてスタートしました。本メルマガでもこれまでに、手形取引の見直しや振込手数料の問題、価格決定における協議の重要性など、いくつかの改正ポイントをご紹介してきました。

こうした改正の流れに共通するのは、中小受託事業者に対する不合理な負担の転嫁を是正し、取引の実質的な適正化を図るという点にあります。そして今回の矢崎部品株式会社に対する勧告もまた、その方向性を示したものといえます。

令和8年3月30日、公正取引委員会は、矢崎部品に対し、下請法第4条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)違反を理由として勧告を行いました。本件は改正前の取引に関するものであるため旧法の適用となっていますが、その考え方は取適法下においてもそのまま妥当するものです。

同号は、親事業者が下請事業者に対し、自己のために経済上の利益を不当に提供させることを禁止する規定です。従来は協賛金やリベート等が典型例とされていましたが、近時はその適用範囲が拡張され、保管や管理、品質確保のための付随業務といった領域にも広く及んでいます

本件において問題とされたのは、主として次の三点です。第一に、84社に対し、製品サンプルを製造させた上で、6か月又は1年間無償で保管させていた点です。第二に、119社に対し、品質記録帳票類を20年間等保管させ、さらに書面を電磁的記録に変換させていた点です。第三に、69社に対し、発注を長期間行わないにもかかわらず、合計5,235個の金型や治工具を無償で保管させていた点です。

 これらはいずれも、発注側の品質管理や将来対応のために必要とされる行為ですが、その費用負担について明確な合意がないまま、実質的に下請事業者側に負担させていたことが問題とされました。特に本件では、「代金に含まれている」との説明がなされたものの、公正取引委員会はこれを認めず、費用負担についての具体的合意の不存在を重視しています。

この点は、取適法下の実務においても極めて重要です。すなわち、単に契約書上の形式を整えるだけでは足りず、どの費用を誰が負担するのかについて、事前に十分な協議を行い、その内容を明確に書面化しておく必要があります。

また、公正取引委員会及び中小企業庁は、型の無償保管について監視を強化していることを公表しており、長期間発注がない場合や再使用の見込みがない場合には違反となり得ること、保管を継続する場合には受託側と協議の上で保管費用を支払う必要があることを明示しています。

本件の勧告内容を見ても、過去の費用相当額の支払に加え、将来に向けて「費用負担について十分に協議の上、書面により合意すること」が繰り返し求められています。さらに、社内研修の実施や体制整備、取引先への通知といった措置まで求められており、単なる個別違反の是正にとどまらず、企業全体の運用見直しが前提とされています。

実務上は、まず自社において、金型、治工具、製品サンプル、品質記録、電子データ等の保管・管理の実態を棚卸しすることが出発点となります。その上で、保管の必要性、期間、費用負担を整理し、受託事業者との間で協議を行い、その結果を契約書や覚書等で明確化することが求められます。

取適法の施行により、「形式」ではなく「実質」に着目した取引適正化の流れは一層強まっています。本件は、その流れの中で、従来の商慣行がそのままでは通用しないことを示した典型例といえるでしょう。製造業を中心に、品質確保や将来対応の名目で付随的な負担が発生しやすい領域においては、特に注意が必要です。

この機会に、「無償で依頼している業務や保管がないか」という観点から、自社の取引実務を見直すことをお勧めいたします。

以上

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