他所の店では働くな!退職社員が近所で働くケース
退職した美容師が近所の美容室で働いたことを違法とした判決が出ました。
同じような仕事をすることを禁止することはできるのでしょうか。
会社と社員はどのような約束をするべきでしょうか。
一所懸命育てた社員が、ノウハウや顧客をもってライバル会社に移籍したり、独立して同じような事業を始めたりすることは、会社にとって頭の痛いことです。まるで敵に塩を送るようなことであり、しかもこちらの事情も筒抜けになってしまうからです。
そもそも論で言うと、退職後は自由に働けるはずであり、どんな仕事に就こうが自由ですし、会社から「あれするな」「これするな」と言われるべきものではありません。
しかし、会社としてはすっかり成長した社員が自分の畑を荒らしていくことは納得がいかず、一定の制限を課す場合があります。
それがいわゆる「競業禁止」であり、社員から誓約書などの形で取り付けておくということが良く行われています。
もっとも、判例では、退職後の社員の行動に制限を課すことはかなり限定的であり、裁判例でも競業禁止条項が無効とされたものは数多くあります。だからといって、競業禁止条項を入れないわけにはならないという意識を会社も持つようになりつつありますが、他方で「競業禁止条項って、入れても結局無効になるのでは?」という質問もよく受けることがあります。
そんな中、東京地方裁判所で競業禁止条項を有効とする判決が出されました。
問題となったのは、美容師が勤務していた美容室を退職した後、すぐに近隣の美容室で働き始めたというケースです。このような判決は、事実関係が大切なので少し丁寧に説明します。
東京都内の美容室に勤務する美容師が、その美容室を退職することになりました。元々の勤務先美容室とは、退職後1年間、東京都内で同業に就かないという競業禁止特約が結ばれていました。ところが、その美容師が退職後同じ都内の美容室で働き始めたのです。
元の勤務先である美容室は、「顧客が流出した」として競業禁止特約に基づいて損害賠償を請求して裁判を起こしました。これに対し、美容師側は「職業選択の自由に反する」と主張して争いました。同じような枠組みの裁判は昔から数多くあり、ほとんどのケースで会社側が敗れています。
ところが、東京地方裁判所は、競業禁止特約を有効として、損害賠償を認めたのです。
注目ポイントは以下のような事情です。
1つ目は、業種の特性です。
美容師は、個人に顧客がつきやすく、退職後に顧客を奪うリスクが高い職種だとされました。確かに、美容師が違うお店に行くと多少遠くてもそっちに行きたくなりますよね。
2つ目は、目的の正当性です。
競業禁止の目的が、単なる嫌がらせではなく、「顧客情報や営業上の利益を守る」という正当なものである点が評価されました。ほとんどの会社は、嫌がらせとは言いませんが元社員に腹が立つと言うことで、あまり理由も考えずに訴えを起こすことが多く見られることが背景にあると思います。
3つ目は、制限の内容が限定的だったことです。
期間は1年、地域も都内に限定されており、無制限な制約ではない点が、公序良俗違反に当たらないと判断されました。多くの場合、期間ももっと長く地域も広く定められているのですが、1年、地域限定という点がよかったと思われます。
以上の3要素の他の要素を確認した結果、退職後すぐに近隣店舗で働いた行為について、「顧客を誘導する意図が強い」として、東京地方裁判所は、競業避止義務違反を認定したものです。
もっとも、損害額については請求全額ではなく、6万円のみが認められるという結論になっています。
今後競業禁止特約を社員と結ぶ会社は、あまり欲張らずに弁護士等の専門家に相談して禁止期間、範囲などを慎重に検討する必要がありますね。
以上





