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解雇無効時の金銭救済制度について

 ずいぶん前のメルマガで,解雇無効について金銭解決を可能にするような制度の導入が議論されている,とお伝えしていたかと思います。   
 今年4月に,「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の報告書が,厚生労働省から公表されました。まだ,金銭救済制度ができることが決まったわけではありませんが,どのようなことが議論されているのか,ざっとチェックしておきたいと思います。

 前提として,今の日本には金銭解決の制度というものはありません。労働者が解雇されたが無効だと考える場合に,法的手続によって救済を求めようとしたら,復職を求め,同時に復職までの賃金の支払(バックペイ)を請求するということになります。しかし,そんな無効な解雇をしてくるような会社では,正直もう働きたくない,という人が多いのが現実でしょう。このような場合に,一定の金銭の支払いを受けて,労働契約を解消するという選択肢をつくりだそう,というのが,現在議論されている金銭救済制度です。

 法的な構成としては,形成権構成あるいは形成判決構成が検討されています。詳しい説明は割愛しますが,どちらも,「労働者の請求によって使用者が金銭を支払い,その支払いによって労働契約が終了するしくみ」を念頭に置いたものです。またどちらの考え方によっても,判決が確定するまでは,労働者は請求を撤回することができ,また,判決が確定する前に使用者が金銭を支払っても労働契約は終了しないとすることが検討されています。

 ですから,あくまで労働者側が選択できるのであって,会社側から金銭解決を求めることができる制度として議論がなされているわけではありません。

 報告書では,金銭について「労働契約解消金」と呼び,その定義については,①無効な解雇がなされた労働者の地位を解消する対価,②無効な解雇により生じた労働者の地位をめぐる紛争について労働契約の終了により解決する対価,といったものが考えられるとしています。また,労働契約解消金は,バックペイとは別のものと整理しうるとされています。

 対象となるものとしては,無効な解雇(有期雇用・無期雇用いずれも)と,労働契約法第19条に該当する雇止めが考えられるとされています。

 さて,会社側として最も気になるのは,労働契約解消金がいくらになるのかという点かと思いますが,残念ながらまだそこまで議論は詰まっていません。一定の算定式をおくのか,上限下限をおくのか,どのような考慮要素を定めるのか等については,「政策的に判断すべき」とまとめられており,今後の議論が注目されます。

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