従業員が退職して、隣に店を出したらどうする
従業員が退職後、同種の仕事をして競争相手になることがあります
会社は、競業避止義務を従業員に約束させましょう
約束したことはすべて有効ということではありませんから注意が必要です
駅前の商店街に繁盛している小さなラーメン屋がありました。ある日、熱心に通っていた客の若者が、バイトさせてもらいたいと何度も頼んできました。夫婦二人でやっている店なので、バイトは要らないと断ったのですが、あまりにも何度も頼まれたので、バイトとして働いてもらうことになりました。バイト君は、朝早くから夜遅くまで、休むことなく熱心に働いてくれ、夫婦もお店のレシピなど惜しみなく教えて、最後にはキッチンを任せる日もあるほどになりました。
半年ほどして、バイト君は就職するので辞めますと、唐突に夫婦に伝えてきました。夫婦は、気持ちだけだけどと言って封筒に入れた退職金を渡し、バイト君は退職しました。
それから一か月後、仕込みのために朝から店に出てきた夫婦は、隣に同じようなラーメン店ができていることに気が付き、腰を抜かすほど驚きました。その店長は、バイト君だったからです。隣の店は、夫婦の店とよく似た味のラーメンで大層繁盛しましたが、夫婦の店のお客はその分減ることになりました。
夫婦は、弁護士に相談しましたが、ラーメン屋のレシピは似たり寄ったりなので、全く同じとかでなくては訴えるのは難しいし、退職した従業員がどんな仕事をするかというのは、職業選択の自由があるので原則として制限できないと言われて踏んだり蹴ったりの気持ちで余計に腹立たしく感じました。
もしタイムマシンがあったら、ラーメン屋の夫婦は、バイト君に、退職後同種の事業を行わないよう誓約させたことでしょう。退職後に同じような仕事をしないという義務を、法律では競業避止義務と言います。
競業避止義務を従業員に約束させるのは、退職の際には難しいので、入社時に約束させる書類を取る必要があります。
また、注意しなくてはいけないのは、合意通りの義務がそのまま認められるのではなく、競業避止義務によって従業員が受ける不利益の程度、会社側の利益の程度、競業避止義務が課される期間や地域、競業避止義務を課す場合の代償となる措置などを総合的に考慮して、制限的に有効とされたり、全部が無効とされたりする場合があるということです。
この点は、実際の裁判例などを参考に有効な範囲をケースバイケースで考えないといけませんから、専門家のアドバイスを受けることが望ましいです。