従業員が引き抜かれた!
従業員が退職後、元の会社の従業員を引き抜くことがあります。
従業員がどこに勤めるかは原則として自由です。
しかし、度を越えた引き抜きは違法になる場合があります。
部長クラスの従業員が途中退職すると、同業の会社を立ち上げるということがあります。内情を知るライバル会社の出現に、青くなる会社もあることでしょう。営業の最前線にいた責任者が退職した場合などは、相当の脅威になってきます。この場合、競業避止義務や不正競争防止、営業秘密保護などの観点から、牽制や損害賠償などの法的措置をとることもあります。
それに加えて問題なのが、先輩や後輩などの同僚を引き抜くケースです。
憲法22条には職業選択の自由が明記されていますので、どの会社で働くかについては従業員本人の意思が強く尊重され、会社側で誓約をすることはかなり難しいものがあります。退職後に同業他社に行かないよう定める会社も多くありますが、自由に定めることはできず、裁判所はかなり厳しく会社側の定めを制限する傾向にあります。
転職の自由が認められていると、転職を勧誘することもまた原則として自由になりますので、単に転職を勧めることなどは、当然認められることになります。
しかし、もし全ての勧誘が自由であるとすると、会社側もたまったものではありません。主な社員が一斉にやめてしまったら会社は立ち行かなくなってしまいます。
そこで、引き抜き対象となった従業員の地位や、引き抜きによって移籍した人数、引き抜きにより会社に及ぼされた影響、転職の勧誘に用いた方法や態様などを総合して、許される引き抜きなのか、それとも許されない引き抜きなのかを判断することになります。
最近の判断でも、人材派遣会社から独立した会社が、派遣社員や派遣先との契約をこっそり自社に切り替えてしまったケースが問題になっています。派遣社員はもちろん新しい会社に所属して、実際の業務はそれまでどおり行っています。
かなり悪質なケースでもあったのですが、裁判所は新しい会社の元の会社に対する不法行為責任を認め300万円余りの支払を命じました。
これまで引き抜きの違法性が認められることは少なかったので、珍しい裁判例となります。
会社としては、従業員が退職した場合(退職も職業選択の自由として憲法で保護されますから止められません)を想定して、様々な対応策を練っておく必要がありますね。人的資源が限られている中小企業では難しい問題ですが、人手不足も深刻化する中考えておくべき課題です。