退職してほしい従業員がいます。どのように話していけばいいでしょうか。
会社が従業員に退職を勧める行為(退職勧奨)は,方法を間違えば,違法となり損害賠償をともないます。
会社は,様々な理由・事情により,従業員に退職してほしいという場面があるかと思います。かといって,法的に解雇処分とするまでの状況ではない場合,なんとか自主的に退職してほしいと思うものですよね。
このような場合,会社は,従業員に対して退職を勧めていくことになりますが,この退職勧奨も,方法を間違えば,違法となりますので要注意です。
退職勧奨について争われた事案はたくさんありますが,今回は,トラブルのあったバス運転士に対するパワハラと退職勧奨が問題となった東武バス日光ほか事件(東京高裁令和3年6月16日判決)をご紹介します。
本件では,従業員である運転士がバスの運転業務中に,乗客である高校生に対し「おめぇ,次,ぜっていやんなよ。頭出したろ。ふざけてて。次,殺すぞマジで。」と発言する等しました。これを受けて,上司らが,会議室において,反省している,辞めたくない等繰り返し述べる運転士に対し,「男ならけじめをつけろ,他の会社に行け,退職願いを書け。」など述べ退職を迫り,さらに,別の日に「チンピラ」「雑魚」「向いてねえよ」「くそ生意気なことこきやがって」「もう客商売よしたほうがいいよ」「もう会社ではいらないんです。必要としてないんです」などと発言しました。
裁判所は,一審および控訴審ともに,会社に退職勧奨の不法行為責任を認めたものの,一審が「チンピラ」「雑魚」という表現について違法と判断したのに対して,控訴審はこれを否定する(違法ではない)など,判断が分かれました。
控訴審は,「使用者のする退職勧奨は,その内容および態様が労働者に対し明確かつ執拗に辞職(自主退職)を求めるものであるなど,これに応じるか否かに関する労働者の自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱し,その自由な意思決定を困難とするものである場合には,労働者は使用者に対し,不法行為として損害賠償を請求することができる」と述べました。
そして,会社が,単にこのままでは雇用継続できない旨の会社の判断を伝えて自主退職するか否かの検討を求めるにとどまらず,繰り返し辞職を迫り,考慮の機会を与えないままその場で退職願の作成等の手続きをさせようとしたものであり,その発言の内容および態様ならびにその後の当該運転士の精神状態に照らし,労働者に対し明確かつ執拗に辞職を求めるものとして,不法行為責任を認めました。
また,「チンピラ」「雑魚」等の発言については,その発言の趣旨等からすれば業務上の指導と無関係に運転士の人格を否定するものとはいえず社会通念上許容される範囲を逸脱していないとして適法,としましたが,限界事例であったと思われます。
パワハラ研修などでお話する際にいつもお伝えするのは,その言葉は本当に必要なのか,という視点です。人格を否定し,侮辱する発言は,指導においては全く必要ありません。そのような発言をしないと指導できないならば,むしろ指導者としての適格性に欠けると言わざるを得ません。
常日頃より会社全体で指導方法の意識づけをしておくことが重要です。弊所では,ハラスメント研修の講師もしておりますので,是非ご活用ください。