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業務上の経費を給与から差し引けるか?

(1)営業職の社員が業務上で使用するタブレットの使用料
(2)会社のロゴ入りキャンディなどの販促品の代金
(3)提案書類の印刷費用
などを社員の負担とし,給与から差し引くことができるでしょうか。

 今回は,これが争われた住友生命事件(京都地裁令和5年1月26日判決)を簡単にご紹介したいと思います。

 よく,「従業員に対して債権があるので,給与と相殺してもいいですか」というご質問を受けますが,無制限にはできません。  労働基準法で,「賃金は,(中略)その全額を支払わなければならない。」(24条1項)と定められています。例外は,「法令で別段の定めがある場合」(=所得税の源泉徴収,社会保険料の控除など)と,労使協定がある場合です。しかし,労使協定があれば,労働基準法24条違反にならないというにすぎません。労働契約上控除が認められるためには,労働契約上の根拠,すなわち,就業規則の定めまたは,労働者の個別同意が必要です。

 まとめると,給与からの控除には,①労使協定の定め+②a就業規則の定めまたは②b労働者の同意が必要となります。

 住友生命事件では,①労使協定の定めはあったと認められ,②a就業規則の定めがなかったことから,②b労働者の同意の有無が問題となりました。

 労働者の同意について,従来,裁判所が労働者にとって不利益となる事項について同意したと認められるか否か判断するにあたっては,非常に慎重な姿勢をとることが多く,「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か」というフレーズが繰り返し使われています。

 この点,住友生命事件判決は,(1)タブレットの使用料については,書面による合意があること,業務上の利用が義務づけられていなかったこと,賃金控除を認識しながらタブレットを使用し続けていたことを根拠に同意を認めました。それだけでなく,(2)販促品の購入費も,同意書などがないにもかかわらず,給与から控除がされていることを認識しながら明確な異議を述べずに注文を続けていたこと,業務上の利用が義務づけられていなかったことを根拠に,同意を認めました。上記の従来の裁判所の姿勢からいくと,比較的緩やかに同意を認めているようにも思われます。

 なお,(3)提案書類等の印刷費は,個々の営業職員がその判断に応じて注文するものではなく,印刷の量にかかわらず一律定額で課されるものであったことから,同意を否定しています。

 住友生命事件から学べることとしては,労使協定と就業規則or労働者の同意があれば,業務上の経費であっても,給与から控除できる場合があること,控除できる経費としては,利用を義務づけているのではなく労働者の裁量で利用するか否かを決定できるもの(逆に言えば,利用しなくても業務が遂行できるもの)に限られること,でしょう。なお,本件は控訴されているようですので,同意があったと認められるのはどのような場合なのかについては,控訴審の判断にも注目する必要があります。

以上

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