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取締役は誰の意向で動くべき?

取締役と会社との関係は、法的には委任であり、取締役は、委任の本旨に従った善管注意義務を負います。
同時に、取締役は、株主総会決議を遵守し、会社のために忠実に職務を遂行する義務を負っています。
では、一人株主の意向(これは株主総会決議の決議と同視できます)がどのようなものでも、それに従ってさえいればよいのでしょうか。

参考となる裁判例として、東京地裁の平成31年3月22日判決を紹介します。

この事件をごく簡単に整理すると、会社の一人株主Aの意向に従って、X会社がある財産をAから購入し、5か月後に約半額で売却した、Aはその後X会社の株式を第三者に譲渡し、X会社が元取締役らの任務懈怠により売買差額の損害を受けたと主張して、訴えたというものです。

判決は、善管注意義務と忠実義務との関係について、以下のような内容を述べています。

  • 一人株主の場合には、委任の本旨に従った善管注意義務とは当該株主の利益の最大化を図る義務を意味する。
  • 一人株主が業務執行について意思決定した場合、当該業務の執行に伴う損害を許容しているといえる。
  • 法令及び定款に違反して株主の利益を最大化することは許されない。また、一人株主といえども会社債権者を害してまで会社財産を自由に処分できるわけではない。こうした場合は、取締役は業務遂行の指示の変更を求める義務がある。
  • 一人株主の業務執行の意思決定があった場合の取締役の善管注意義務の水準は、その業務が法令定款に違反する、又は、会社が債務超過状態にあるなどの特段の事情が無い限り、同意思決定を尊重すべきこととなる。

そして、本件においては、法令定款の違反はなく、また当時X会社は債務超過ではなかったことから、元取締役らに善管注意義務違反はなかったと判断しました。

なお、一人株主の意向にそった業務執行を行った取締役に対する責任追及の可否については、いくつかの裁判例があり結論も様々です。上記の判決も、取締役は一切責任を負わないと判断したわけではありませんので、注意が必要です。

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