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民事信託は魔法の杖なのか?

信託が、高齢化社会における認知症対策の手法として普及しつつあります。
親が認知症になった場合に、成年後見は使いにくい、
民事信託を利用すれば何でもできる…と思っておられる方もいるかもしれません。
でも、本当に信託は何でもできる魔法の杖なのでしょうか?

認知症対策として信託を利用するメリットとしては、
きちんとしたスキームで信託を設定すれば、
資産保有者や事業経営者が認知症を発症しても、資産や事業が塩漬けされるリスクを最小化できることにあります。

これに対して、まさに認知症対策のための制度として、成年後見制度があります。

成年後見制度は、認知症となった後に、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、
選任された成年後見人が、被後見人の財産等を管理する制度です。

ただし、成年後見制度については、以下のような使い勝手の悪さが指摘されています。

  1. 親族が後見人となることを希望しても、第三者たる士業者が専門職後見人として選任され、士業者が直接家族内の財産管理を行うことになりうる。
    その場合、専門職後見人への報酬の支払いも必要になる。
  2. 専門職後見人と親族との関係が悪化しても、後見人を解任することは難しい。
  3. 財産の利用や処分が制限される。
    投資・事業運営・相続対策等が困難となる。親族のための金銭使用の額が制限される。

このような使い勝手の悪さを解消するために、信託の利用が検討されることがあります。

確かに、信託を利用することで上記の使い勝手の悪さを一部であれ解消することができることがあります。
しかし、信託だけで何もかもをカバーできると考えることは誤りです。

そもそも信託を利用して、成年後見人の関与が不要となるのは、信託を設定した「特定の財産関係」についてだけです。

たとえば、高齢者の親の介護施設入所費用をねん出するために自宅を売却できるよう信託を設定するべきと言われます。
しかし、信託の受託者は、介護施設のためのお金は作れても、
認知症となった本人のために介護施設との入所契約を締結することはできないのです。

また、信託の受託者には、年金の受領権、福祉医療契約の締結権、詐欺取消権などは認められていません。
さらに、認知症発症後に信託運営資金が不足したり、新たな信託に関する意思決定が必要になった場合には、信託のみでは対応できません。

つまり、民事信託の利用は後見制度を不要とする魔法の杖ではないのです。

信託の設定と任意後見契約等を併用することによって、信託の良い点を利用しつつ、不十分な点を補うことが必要になってきます。


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