完全自動運転車が事故を起こしたら?
自動運転技術の発展が著しい昨今、完全自動運転も夢ではなくなってきています。
自動運転車が事故を起こした場合、誰がどのような責任を負うのでしょうか。
自動運転には段階があり、現在各自動車メーカーが発売している衝突回避支援、車線維持や前車追従走行等のシステムも「自動運転」も含まれています。
その段階に応じて、法的責任の所在や内容も変わってくるのですが、自動運転の最終目標である「完全自動走行」が実現した場合の法的責任を考えてみましょう。
①刑事責任
非自動運転の場合には自動車を運転するドライバーが存在し、過失により交通事故を起こしたドライバーは自動車の運転上注意を怠った等として、刑事責任を問われます。
一方、「完全自動運転」ではドライバーがいなくなり、搭乗者は「乗客」となりますので、現行法上の刑事責任の追及は困難と考えられています。
たとえば自動運転車に「ある人を助けるために他の人を犠牲にする旨」をプログラムしていた場合、プログラマーに刑事責任が肯定されうるとも思えるのですが、そうなると研究開発の委縮が生じるとして、現在、緊急避難や許された危険等の法理の適用の適用による免責についても議論されているようです。
②民事責任
現時点では、ドライバーの過失を理由として不法行為に基づく損害賠償請求等をしていますが、完全自動運転になると、「ドライバー」という概念が存在せず、「誰の過失をどのように問うのか」が大きな問題となってきます。
- 自動運転走行システムの製造業者が製造物責任を負うのか。
- プログラム自体が自己のプログラムをより良いものに改変していた場合、開発者の責任が問えるのか。
- プログラムがハッキングされて事故を起こした場合はどうなるのか。
- ドライバーがソフトウェアのアップデートを怠っており、そのせいで事故が発生した場合には、ドライバーの責任は問えるのではないか。
等々、法的責任関係が現在よりも複雑化する可能性があり、これまでの自賠法に規定する運行供与者責任や民法に基づく不法行為責任等に基づく責任の在り方を検討する必要があるといわれています。
交通事故に係る弁護士の仕事も大きく変化してくることが予想されますので、最新の議論を追いかけていきたいと考えています。