従業員が事故を起こした場合の「逆求償」
従業員が業務中に事故を起こし、第三者に損害を与えた場合、会社は「使用者責任」に基づきその第三者に対する損害賠償義務を負います。
そして、会社が実際に賠償を行った場合には、事故を起こした従業員に対し求償することができます。ただし、求償できる範囲は、賠償した全額ではなく、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限られるというのが、最高裁の考え方です。
では、従業員が業務中に事故を起こし、従業員自身が第三者に損害賠償を行った場合に、従業員から会社に「逆求償」することはできるのでしょうか。
会社側からすれば、「事故を起こしたのは従業員自身なのだから、それを会社に負担してくれと請求するのはけしからん」ということになるかもしれません。
「使用者責任」は、一般的に会社の方が資力があると考えられることから、被害者の救済のために特別に課されている責任です。ここから考えると、本来的な賠償義務者である従業員からの逆求償はできないともいえそうです。
しかし、以前から、理論上は逆求償は可能だという見解が優勢となっていました。というのも、最高裁が求償に関して「損害の公平な分担」という考え方を示していたためです。会社が第三者に賠償した場合と、従業員が第三者に賠償した場合とで、会社・従業員の負担割合が異なるのはおかしいだろうということですね。
このたび最高裁は、逆求償に関しても、「損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について」可能であるという判断を下しました。
具体的な考慮要素としては、求償の場合と同じく、「その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の義務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情」となります。
最高裁の事件は、運送会社(誰でも名前を知っているような会社です)のドライバーが、自転車との死亡事故を起こしたというもので、ドライバーは「罰則金」として40万円を会社に払い、退職しました。またこの会社は、すべての車両について任意保険に加入せず、「自家保険政策」を採っていたようです。
最高裁は、逆求償の具体的な金額について更に審理を尽くさせるため、事件を高裁に差し戻しました。ですので、具体的な金額はまだ分かりませんが、上記のような「諸般の事情」からすると、逆求償の金額はそれなりに大きなものになるのではないかという気がします。